この病の治療薬
百段以上ある神社の階段を登っていくと、それだけで額には汗が浮かび、息が上がっていく。だが、碧(あおい)は決して足を止めることはなく、神社を目指して歩き続ける。一日に一度は神社にお参りする、それが碧の日課となりつつあった。

十五歳の碧が神社にお参りに行くのには、大きな理由がある。それは、碧にとって唯一の家族である母のことだった。

母は病弱で、季節が変わるたびに体調を崩している。布団の中で数日過ごすのは珍しいことではなく、母が病気になる度に碧が一生懸命看病をしていた。

だが、今回母が罹ってしまった病気は、江戸や京で多くの死者を出している恐ろしい流行病だった。誰かが持ち込んだ病気はこの小さな村にあっという間に広がっていき、碧の母も発症してしまったのだ。

この流行病に効く薬はなく、どんな名医と呼ばれる医者も手の施しようがないと匙を曲げているそうだ。碧の看病で治るはずがない。

「こうなったらもう神頼みだよね!」
< 1 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop