お嬢様、今宵は私の腕の中で。

そんなの嫌だよ、耐えられない!


だんだんと目の前が真っ暗になっていく。


「お、お父様!そこをなんとか!
わたし、追い出されたらやっていけません!
たぶん、いや絶対死んでしまいます……!」



床に手をついてガバッと頭を下げる。


これで追い出されずに済むのなら、土下座なんて安いものだ。



「すず、何をしている」

「すずちゃん?」



両親の声が降ってきたけれど、わたしはそのまま手をついて静止していた。



「顔をあげなさい、すず」



お父様の一言に、そろり、と視線を上げる。



「すず。何か、勘違いしていないか?」



お父様が怪訝そうな表情で、顎に手を当てた。


それに合わせてお母様も、こてん、と首を傾げる。



「え……?わたし、追い出されるんでしょう?」



おそるおそる問いかけると、お父様とお母様は顔を見合わせて、それからプッと吹き出した。



「何言ってるんだ。そんなわけないだろう」

「うちの大事な大事なすずちゃんだもの。追い出すなんて、そんな」

「え、じゃあお別れって……」



キョトンとするわたしに、貴船が向き直って姿勢を正した。
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