お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「お嬢様、今日はピアノのお稽古です」
裁縫よりマシだけど、指を使うんだからそんなに大差ないよ。
でも、この間十分お休みを満喫したから、頑張るしかないよね。
「ピアノの後ではダンスのお稽古も入っておりますが」
「ダンス?」
「はい。そろそろ旦那様のご友人とのパーティーがありますので。そちらでお嬢様もダンスを踊られることになるかと」
「え」
そんなの聞いてないんですけど。
年に一度、年の瀬にさまざまな企業の社長や芸能人を招いて、盛大なパーティーをするのは恒例のことだから分かるけど。
なんでわたしがそこでダンスを踊らなきゃいけないわけ?
「旦那様曰く、お嬢様も今年で16歳。多少は男性との交流があってもよろしいのではないか、と」
「なにそれ。すっごく嫌なんだけど」
「私もです。……そんなものなくなればいい」
おっと?
今、また低い声が聞こえた気がするけど。
「とりあえず、ピアノのお稽古を頑張りましょうか」
「うん」
そうだね。
今は目の前のことに集中しなくちゃ。
パーティーのこともダンスのことも、後でお父様からお話があるだろうし。
「よしっ。ピアノ頑張るぞ!」
「何事にも一生懸命なのはよいことです。素敵ですよ、お嬢様」
「にゃー」
「みゃあ」
九重とランとルナに応援されて、やる気が出てきたよ!
一度ランの頭を撫でてから、元気よく立ち上がる。
ピアノのお稽古に向かうころには、わたしの脳内では心地よいメロディーが流れていた。