お嬢様、今宵は私の腕の中で。
*
「すず。今回呼んだのは他でもない。パーティーのことなんだが」
「毎年のことだから分かるわよね、すずちゃん」
身を固くするわたしの横で、九重が静かに立って話を聞いている。
やっぱり何度顔を合わせても緊張するよ。
この間ファミレスに行ったこと、バレてないかな。
一度気になりだしてしまうと、なかなか意識から外すことは容易ではなくて。
「……すず?」
「は、はいっ」
無意識のうちに、目がキョロキョロしていたみたい。
具合でも悪いのか、と問われてぶんぶんと首を横に振る。
「ダンスの稽古はどうだったか?」
「あまりうまくできませんでした」
これは謙遜とかじゃなくて、本当のこと。
ピアノのお稽古の後であったダンスのお稽古の有り様と言ったら、それはもう酷いものだった。
「今年からダンスの稽古を入れたのはな、すずに今度のパーティーでダンスをしてもらうためなんだ」
ついに来たか、と姿勢を正す。
ものすごく怖いけど。
でも、気になることは訊いてみないと駄目だ。
「ダンスは、男性の方と2人で踊るのですか?」
「そうだ。毎年すずも見ていたから分かるだろう」
その言葉を聞いた瞬間、さあっと血の気が引いていく。
毎年のパーティーで御令嬢や御子息、芸能人や御曹司の人たちが、ドレスを着て優雅に踊っているのを、わたしは端で見ていた。
それなのに今年からわたしが踊る側になるなんて!