お嬢様、今宵は私の腕の中で。
もし仮にわたしに好きな人がいたとしても、問答無用で政略結婚させるつもりなのだろう。
有無を言わせぬ圧に、怒りではなく呆れが生まれた。
お父様とお母様の気持ちも分からなくもない。
この家に生まれた以上、こうやって家同士の繋がりを深めていかなければならないことくらい分かってる。
先祖代々そういうふうにして命を繋いできて、わたしが生まれたことも分かる。
だけど。
やっぱりわたしは、自分が好きな人と結婚したい。
これから先、好きな人ができようともできまいとも。
親の言いなりになるなんて嫌だ。
「わたし、は」
「だってすずちゃんしかいないもの」
言葉を紡ぐ前に、お母様の言葉が耳に届いた。
「すずちゃんはこの家を継ぐのよ。そのことは分かっているわよね?」
「……え」
そんなの、ずるいよ。
わたしが一人っ子であることを理由に、縛り付けるようなことしないでよ。
"家"という言葉を聞くたび、自分の立場を嫌でも思い知る。
わたしがこの家を継いで、もっと繁栄させていかなければならないこと。
そのためには、財力や権力がある人と結婚して、様々な家と良好な関係を築かなければならないこと。
「一度会ってみれば、きっと気持ちは変わるさ。それくらい良い人なんだから」
「そうよ。直接会って話してみれば、お相手の良さが分かるわよ」
ね?と釘を刺す両親に、うなずきは返さず部屋を出る。