お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「貴船、ちょっと待っていて」
中庭の花壇に咲いている花を一輪とって、書斎に戻る。
差し出すと、貴船は目尻に皺を寄せた。
「綺麗なピンクですね。このお花は?」
「ネリネです。別名はダイヤモンドリリー。花言葉は───また会う日を楽しみに、です」
にこりと微笑むと、貴船はおだやかな笑顔を浮かべた。
「本当に、素敵なお嬢様になられました」
貴船の目には、きらりと何か光るものがある。
それにつられるように、わたしの目からも涙が一粒こぼれ落ちた。
「今まで、本当にありがとうございました。困らせることが多かったと思うけれど、あなたがいたから今のわたしがあります。どうか、いつまでもお元気で」
「はい。すずお嬢様も」
別れの言葉を交わし、貴船が一礼をして部屋を出ていく。
パタリ、とドアが閉まった瞬間、涙腺が崩壊して涙がとめどなく溢れてきた。
「うっ……う」
毎日わたしの世話をし、わたしのつまらない悪戯に引っかかり、そして優しく笑って許してくれた貴船。
その存在がどれだけ大切で、どれほどわたしを救ってくれたか。
彼から受けた愛は、はかり知れない。