お嬢様、今宵は私の腕の中で。

どこへ視線を向ければいいか分からず、ふと視線を鏡に向けると、鏡の中の九重と目があった。



「っ……」



ドライヤーの音のせいで何も聞こえないのに、自分の心臓の音だけは、やけに大きく響いて。


どっどっと高鳴る鼓動と、熱くなっていく頬。


動揺を隠したくて、慌てて視線を逸らす。


ドライヤーの音でかき消されているけれど、わたしの心臓の音、外に聞こえているんじゃないか。


そんな不安が頭をよぎるほどうるさい鼓動は、九重が髪に触れるたびどんどん大きくなっていく。



「終わりましたよ、お嬢様」

「あ、ありがとう」



鏡に映ったわたしの髪は、いつもより艶が出てサラサラになっていた。



「いつもより綺麗になってる……」

「こちらのヘアオイルは髪に艶を出すだけでなく、ダメージケアもしてくれるんですよ」

「へえ……。しかも、いいにおいがする」

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