お嬢様、今宵は私の腕の中で。

だって、ものすごく距離が近い。


僅かな息遣いですら聞こえてきそうだ。



「お嬢様」

「ひゃ……っ」


耳に熱い吐息がかかり、思わず身体が跳ねる。


九重はクスリと笑ってわたしの髪をすくって、さらりと()いた。


鏡越しに見るその動作の、なんと艶っぽいことか。


伏し目がちな睫毛の下の瞳は、夜を溶かした深青。


硝子玉のように澄んだ瞳が僅かに揺れ、流れるようにまっすぐにわたしを見つめる。


わたしの髪に触れていた手が、ゆっくりと首筋をなぞっていく。



「な……っ」



九重から離れようと試みても、ふ、と耳に熱い息を吹きかけられてしまえば。


背筋にゾクゾクと感覚が走り、ふらっと身体の力が抜けた。



「やはり、お嬢様は耳が弱いのですね」

「や……っ」



耳元で囁かれるたび、ゾクゾクとした感覚が身体中を駆け巡る。

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