お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「ここの、え。もう、離し……」
「駄目です。申し上げたはずでしょう?続きは今夜、と。逃げるおつもりですか」
「や……っ」
「無論、逃がしはしませんが」
低く唸るようにつぶやいた九重は、軽々とわたしの身体を持ち上げた。
悠然とわたしを抱きかかえた九重は、そのままベッドの方へ向きを変える。
「ま、待って……」
「いいえ待ちません。見えますか、自分が今どんな顔をしているのか。そのような濡れた瞳で誘惑されては、さすがの私でも理性を保ち続けるなど到底無理な話です」
くるりと鏡のほうへ顔を向けられて、嫌でも自分の顔が視界に入ってくる。
頬は赤く染まり、まるで湯気が出るかのように熱く火照った身体。
あまりの羞恥にいたたまれず顔を背け、代わりに九重の胸元に顔を埋める。
「────完全に誘ってんだろ」
今までで1番低く、それでいてどこか甘さを含んだような声が降ってくる。