お嬢様、今宵は私の腕の中で。
ベッドに降ろされて瞼を上げると、奥深くに欲情と熱を孕んだ瞳がまっすぐにわたしを見下ろしていた。
「これは参りましたね。私の想像以上に素敵ですよ、お嬢様。────もう抑えるとか無理」
荒々しく前髪をかきあげた九重は、わたしのすぐ横に両手をつき、小さく口の端を上げて耳元に唇を寄せた。
「……ふ、ぅっ」
意識に反して唇の隙間から洩れる声が、静かな室内に響く。
耳を優しく手で撫でられるたび、ぞわぞわとした感覚が身体中を支配する。
「やっ……ここ、のえ」
耳を隠そうと伸ばした手は、易々と九重の片手によって頭の上で押さえつけられる。
「……っ、その顔は狡いです、お嬢様」
苦しげに顔を歪める九重は、わたしの顔のすぐ横に自らの顔を沈めた。
「九重……?」
「冗談のつもりだったのに。加減、できなくなるじゃないですか」
シーツに顔を埋めているせいで、くぐもった声しか聞こえない。
「え……?」
「私はまだ……貴女を襲うわけには、いかない……今のは全て、冗談、です」
途切れ途切れに聞こえる声を耳が拾う。
九重は自分に言い聞かせるように小さくつぶやき、苦しげに浅い呼吸を繰り返した。