お嬢様、今宵は私の腕の中で。
九重の言う通りに口をつぐんでいると、しばらくして九重は静かに身体を起こした。
わたしの顔を見ることなくベッドから降りて、窓のそばへ近寄る。
「……お嬢様、月が綺麗ですね」
先ほどまでの出来事はまるでなかったかのように、静かな声音でつぶやく九重。
その横顔は月明かりに照らされ、一段と綺麗に見える。
まだ上手く力の入らない身体を横たわらせたまま、ぼんやりと九重の横顔を見つめる。
「すみません、お嬢様。先ほどのは、さすがにいきすぎでした。つい感情の昂ぶりに流されそうになってしまいました」
夜空を見上げたままぽつりとつぶやいた九重は、額に手を当てて俯いた。
「普通に怖いですよね。自分勝手な行動でお嬢様を傷つけました。本当に申し訳ございません」
謝罪の言葉を述べる九重の声は、僅かに震えていた。