お嬢様、今宵は私の腕の中で。


九重の言う通りに口をつぐんでいると、しばらくして九重は静かに身体を起こした。


わたしの顔を見ることなくベッドから降りて、窓のそばへ近寄る。



「……お嬢様、月が綺麗ですね」



先ほどまでの出来事はまるでなかったかのように、静かな声音でつぶやく九重。


その横顔は月明かりに照らされ、一段と綺麗に見える。


まだ上手く力の入らない身体を横たわらせたまま、ぼんやりと九重の横顔を見つめる。



「すみません、お嬢様。先ほどのは、さすがにいきすぎでした。つい感情の昂ぶりに流されそうになってしまいました」



夜空を見上げたままぽつりとつぶやいた九重は、額に手を当てて俯いた。



「普通に怖いですよね。自分勝手な行動でお嬢様を傷つけました。本当に申し訳ございません」



謝罪の言葉を述べる九重の声は、僅かに震えていた。

< 136 / 321 >

この作品をシェア

pagetop