お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「え……っと、よく分からないけど、気にしてないから大丈夫だよ……?」
確かにびっくりはしたけど。
でも、そんなに落ち込む必要があるほどのことなんてされてない。
キス、とか、それ以上、とかだったらまた話は別だけど、今回は言うなればハグと耳元での囁きだけ。
激しい不快感とか恐怖とかを感じたわけでもないし。
嫌だった点をただ1つ挙げるとしたら、それは自分の鼓動の音がうるさかったということくらい。
「気にされていないというのもそれはそれで悔しいですが、とりあえずよかったです。安心しました」
「で、でも、これから先あんなこと急にしないでよね。びっくりするから」
安堵の息を吐く九重に忠告すると、「それは約束できません」と返された。
「……え?」
「また今度お嬢様があのような表情をされることがありましたら、そのときはきっともう我慢なりません。押し倒します」
「お、押し倒っ……!?」
「ですから、十分お気をつけてくださいね。私をあまり煽らないように」
押し倒すとか煽るとか、そんなワードを真顔で言い放つ九重。