お嬢様、今宵は私の腕の中で。
いつもの調子に戻ってきた九重の顔を見つめながら改めて思う。
九重はわたしと違って"大人"なんだよね……。
いつもはお嬢様と執事の関係だから忘れていたけれど、年齢で考えれば九重はわたしよりも幾つも歳上なわけで。
当然、"そういう"経験があってもおかしくない。
というか、普通に考えてこの容姿で女性との絡みが全くない方が逆におかしいだろう。
ふとそんなことを考えてしまって、途端に羞恥で頰に熱が集まる。
「お嬢様。何もしないので……こちらに来てくださいませんか」
静寂の中に、掠れた声が響いた。
静かに身体を起こし、窓際に寄る。
丸椅子に腰掛けて空を見上げると、無数の星が瞬いていた。
一つ一つが己の存在を主張するように煌めいている。
「ねえ、九重……。一つだけ、我儘言ってもいい?」
小さく訊ねると、夜空をそのまま映したような紺青の瞳が、まっすぐに向けられた。