お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「お嬢様。今日からお世話を致します。九重(ここのえ)と申します」


ふわり、と鼻腔をつくのは先程と同じく柑橘系の香り。

そして、少し遅れて桜の香りがやってくる。


「九重さんには、部屋のことも食事も外出も、全て面倒をみてもらうことになる。すず、挨拶しなさい」

「……先程もお会いしましたが、ここは一応」


お父様に言われてしまったため、一言告げてからどんよりとした気持ちのまま渋々フリルのワンピースの裾をちょんと摘み、できるだけ美しい所作でカーテシーをする。


「お初にお目にかかります。桜すずです。これからよろしくお願いします」


あくまでお嬢様と執事の関係。

ほどよい敬語を使い、我ながら上手く挨拶できたのではないだろうか。
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