お嬢様、今宵は私の腕の中で。

『見て!つきが見えるよ!』



視線をずらすと、自分と同じように地面に寝転がって夜空を見上げる人物がそこにいた。


その姿はぼんやりと抽象的で、はっきりと認識することができない。


それが女の子なのか、男の子なのか。


性別の判定すらできない。


そうしていると場面が変わって、今度はひまわり畑で手を振るわたしの姿が目に映った。


その姿からして、きっと4、5歳くらいだろう。


無邪気な笑顔で、大きく手を振っている。


その視線の先にいたのは、手を振るわたしよりも大きく見える男の子だった。


けれど、やはり線がはっきりとしていなくて、男女の区別ができる程度の解像度でしかない。



『こっちこっち!はやく捕まえないと逃げちゃうよー!』



わたしの声に気づいた男の子は、わたしの元へと駆け出す。


どうやらおにごっこをしているらしい。


キャッキャと声を上げながら、ひまわり畑の中にわたしの姿が消える。


そこでまた場面が切り替わった。

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