お嬢様、今宵は私の腕の中で。
『いかないで……わたしを置いていかないで』
途端に、胸がぎゅうっと強く締め付けられたように痛い。
悲痛な声が、耳に、頭に、響いている。
────きっとこれは、わたしの声だ。
よく見る夢がある。
握られていた右手がふっと軽くなって、隣で一緒に歩いていた少女が前に走っていく夢。
『────!』
叫んでも、声が掠れていて少女には届かない。
少女は振り向くことなく、前にいた男の子と手を繋いで歩いていってしまった。
二人の背中はだんだん小さくなり、そしてふっと消えた。
その夢と、この記憶はよく似ているから。
どんなに叫んでも届かない声も、止まらない涙も、紛れもなく夢なのに、夢だと思えなくて。
だからわたしはこの夢を見るたび、なにか禍々しい大きなものに飲み込まれそうで怖くなる。
記憶の糸を手繰り寄せるように、また意識を戻す。
耐えきれず慟哭したわたしに、差し伸べられた、白くて小さな手。
見上げると、柔らかな笑顔が、そこにあった。
『───大丈夫だよ、すずちゃん』
夢はいつも、そこでふっと途切れる。
だから今回も、張った糸を切るように途切れた。
……はずだった。