お嬢様、今宵は私の腕の中で。

てっきり朝にも夜にも強いバリバリ系かと思っていたのに、ものすごく意外。


時折半目になって起きるかと思うも、できずにまた閉じるの繰り返し。


その様子がなんだかおかしくて、思わずクスリと笑いが洩れた。


なんだかちょっと……。



「可愛い、かも」

「……今、なんと?」



バチっ!と音が出るほど勢いよく目を開けた九重に瞠目する。



「眠たいんじゃなかったの」

「それどころではありません。完全に眠気が覚めました」

「ごめん……つい」



だって本当に可愛いって思っちゃったんだもの。


素直な感情なんだから、仕方がないじゃない。


口では謝罪をしつつ、心の中で言い訳をする。



「私のことを可愛いとおっしゃったのは、お嬢様だけです」



そうでしょうね。


普通、九重の容姿や所作に向ける言葉として適切なのは、"格好いい"とか"綺麗"とか"美しい"とか。


そういう形容の方が合っている。


むしろ、可愛さとはかけ離れすぎているような、圧倒的な男性であるわけで。


そんな彼に"可愛い"という言葉を贈るのは、これまでもこれからもわたしだけだという確信がある。

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