お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「存外、可愛いと言われるのも悪くないですね。特にお嬢様に言われると、なんだかとても……」
「ストップストップ!」
なんだか九重に変な趣味が芽生えそうだったので、慌てて口を挟む。
「兎に角、起きたならいいんです。昨夜は付き合ってくれてありがとうございました!」
「その謎敬語はなんですか」
立ち上がろうとして、まだ手を繋いだままだったことに気がつく。
私の視線が落ちたことに気づいた九重が、「すみません」と謝罪をこぼして手を離した。
「昨夜のお嬢様は何かに魘されていらっしゃるようでしたので、つい握ってしまいました」
「ああ……そういうこと」
「悪い夢を見たのですか」
「悪い、っていうか。過去の記憶っていうか」
ん?と首を傾げる九重に、曖昧に微笑んで、ベランダをあとにする。
「お嬢様」
「九重はそこでゆっくりしていて。これから着替えたり準備したりするから。あ、寒かったら中に入っていてもいいけど」
「いいえ。ここでお待ちしております」
部屋に入ると、いつもより早く起きたらしい黒猫のルナが、トコトコとこちらへ歩いてきた。
「みゃー」
「あら、今日は早起きなのね」
抱き上げると、漆黒の瞳がまっすぐにわたしを捉える。