お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「私などのために、そのような美しいご挨拶をありがとうございます。お嬢様」
妖艶に微笑まれ、どきりと心臓が音を立てる。
けれど騙されちゃいけない。
一見、紳士そうに見えるけれど、急に抱きしめてきたのだから。
(この人は全然紳士なんかじゃないのよ、すず。しっかりなさい)
己に言い聞かせ、ツン、と顎を上げた。
「桜家の者として、これくらい出来て当然です」
嫌味ったらしく言ったのに、九重は笑みを浮かべたままこくりとうなずいた。
「そうですよね。流石、桜家のお嬢様ですね。ご立派です」
「……っ」
なんでこの人には皮肉が伝わらないの?
それとも分かっていて上手く返されてる?
おそらく後者だと思うけれど、それを認めたくなくてわたしはふいと顔を背けた。
「二人で話す時間もいるだろう。すず、もう部屋に戻りなさい。九重さんはすずと共に部屋へ」
「分かりました」
「承知致しました」