お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「身体、痛くないの?ほら、座ったまま寝てると、頭とか首とか痛くならない?」

「ご心配なく。基本的にどこでも、どんな状況下に置かれても寝ることができるよう訓練していますから」

「そんなことするの?執事が?」

「どちらかというと、私が、ですかね」



またも意味のわからないことを口走る九重は、部屋のドアノブに手をかけて、くるりと振り返った。



「私も準備して参ります。では、後ほど」

「あ、うん……」



ぱたりと閉まったドアを見つめる。



「さて、と。わたしも用意しなくちゃ」



朝食が運ばれてくるのはだいたい10分後くらいだから、それまでに髪を結ってしまおう。


黒いシンプルなヘアゴムで一つに髪を束ねる。



「すごい。ほんとにサラサラしてる……」



夜間美容液というほどあって、やはり効果は絶大だった。


痛みがちだった毛先が、今朝はなんだか潤っているように見える。

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