お嬢様、今宵は私の腕の中で。

キャットフードを出すと、ランは飛びつくように食べだした。


あまりの勢いに思わず苦笑する。



「お嬢様、お食事です」



ノックとともに、朝食を持った九重が入室してくる。



「ありがとう。いただくね」

「今日も清々しい食べっぷりですね、ラン」

「そうなの。喉に詰まらないか心配になっちゃうくらい」



テーブルに朝食を並べた九重は、「お嬢様」とわたしの前に立った。


「ん?」

「今日は学校が終わり次第、お迎えにあがります」

「え?九重も学校にいるんじゃないの?」

「今日は少し……用がありまして。お迎えの車でお待ちしております」



用……。


言葉を濁すあたり、あまり言及するのは良くないのだろう。


そう思い、それ以上訊くのを止めて口を閉じた。



「それよりお嬢様。最近、朝食は食堂でとられないのですね」

「ああ……なんか、この部屋で食べるようになってから、この窓から見る景色も悪くないかなって思っちゃって。どうして?」

「実は、お嬢様が料理を召し上がっている姿を楽しみにしているシェフが、肩を落としていまして」



いつも美味しい料理を作ってくれるシェフの顔が頭に浮かぶ。

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