お嬢様、今宵は私の腕の中で。

わたしが朝食を食べるとき、シェフは洗い物やらなんやらで忙しそうにしている。


けれど、食堂を出る前に「ご馳走様でした」と必ず言うことを、わたしはマイルールの1つとしていた。


食堂に赴いていないということは、シェフに感謝の気持ちを伝えることができていないということ。



「悪いこと、しちゃったな……」

「いいえ。私が余計な口を挟んでしまいました。どこで食事をなさるのかはお嬢様の自由ですので、私共が口出しできることではありませんでした」



深く頭を下げた後、九重は「ですが……」と言葉を続けた。



「お嬢様が美味しそうに食べているところを見たいという気持ちは、私も重々共感致します。ですから、たまには食堂で朝食を召し上がってください」

「うん。分かった」



こくりとうなずくと、九重は安堵したように息を吐き出した。

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