お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「お言葉に甘えて、一口、いただいてもよろしいですか」
「うん!」
まだ口をつけていないほうのマフィンサンドを取ろうと、意識を逸らしたそのとき。
「……!!」
「これは、美味ですね」
ぎょっと右手に視線を戻せば、先ほどより小さくなったマフィンサンド。
「な、っ……!」
「ありがとうございます、お嬢様」
今のは完全に……。
「……か、かか」
「ん?どうされましたか、お嬢様」
「か、かんせ」
意地悪く口角を上げる九重は、まるで何も気にしていないように余裕な笑みを浮かべている。
絶対分かってるくせに!!
悔しくて、ぎゅっと唇を噛んだ。
「お嬢様?もしかして、『間接キスが恥ずかしい』などとおっしゃるつもりではありませんね?」
「そ、そんなわけないじゃんっ。間接だし、平気だしっ」
「それは良かったです。ご馳走様でした」
颯爽と立ち上がって、九重はドアノブに手をかけた。
「では、玄関でお待ちしておりますので。遅刻せぬようお早めに」
パタリと閉まったドア。
その姿が消えた瞬間、ドクドクと鼓動が速くなっていく。