お嬢様、今宵は私の腕の中で。



「今日は九重さんはいらっしゃらないの?」

「うん。今日はちょっと」

「なぜですの?身体の具合でも悪いのですか」

「いや、そういうわけでもないんですけど……」

「では、どうして」

「えっ、と」



ぐぐぐと詰め寄ってきたお嬢様方に気圧されながら言葉に詰まる。


登校してから、わたしの後ろに九重がいないことに気がつくや否や、血相を変えて飛んできたお嬢様方。


その中には当然、三春さんの姉、神崎姫乃さんもいる。



「その、わたしもよく知らなくて」

「嘘言わないでくださる?」

「いや、嘘じゃなくてほんとに……」



わたしも知りたいくらいだよ。


でも、九重なんにも言ってくれなかったんだもん。


ただ、用、と。


それだけ。



「桜さんが困っていますよ。過度な追求はいけませんわ」



どうしたものかと困っていると、神崎さんがわたしを庇うように前に立ち、声を上げてくれた。



「……それもそうね」

「ごめんなさい、桜さん」



しばしの沈黙の後。


神崎さんの言葉を聞き、ぺこりと頭を下げて謝罪したお嬢様方は、しずしずと自席へ戻っていった。

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