お嬢様、今宵は私の腕の中で。
*
「今日は九重さんはいらっしゃらないの?」
「うん。今日はちょっと」
「なぜですの?身体の具合でも悪いのですか」
「いや、そういうわけでもないんですけど……」
「では、どうして」
「えっ、と」
ぐぐぐと詰め寄ってきたお嬢様方に気圧されながら言葉に詰まる。
登校してから、わたしの後ろに九重がいないことに気がつくや否や、血相を変えて飛んできたお嬢様方。
その中には当然、三春さんの姉、神崎姫乃さんもいる。
「その、わたしもよく知らなくて」
「嘘言わないでくださる?」
「いや、嘘じゃなくてほんとに……」
わたしも知りたいくらいだよ。
でも、九重なんにも言ってくれなかったんだもん。
ただ、用、と。
それだけ。
「桜さんが困っていますよ。過度な追求はいけませんわ」
どうしたものかと困っていると、神崎さんがわたしを庇うように前に立ち、声を上げてくれた。
「……それもそうね」
「ごめんなさい、桜さん」
しばしの沈黙の後。
神崎さんの言葉を聞き、ぺこりと頭を下げて謝罪したお嬢様方は、しずしずと自席へ戻っていった。