お嬢様、今宵は私の腕の中で。
*
「いってらっしゃいませ」
「いってきます」
クリスマスイブ当日。
午前中のところで晶さんたちに準備を手伝ってもらったので、自信を持って出かけられる。
目の前で礼をする数名の使用人に挨拶をして、玄関のドアを開ける。
「すずお嬢様。九重様はお車でお待ちになっていますよ」
「うん。ありがとう、菊さん」
九重の代わりに車まで送ってくれるのは、使用人の菊さん。
水浅葱の着物を着て、上品に微笑んでいる。
「それにしても……嬉しいでしょうねえ」
車に向かっている途中で、菊さんがぽつりと洩らした。
「え?」
言葉の真意が気になってそう問い返すと、菊さんは目尻に皺を寄せる。
「今日がお二人にとって素敵な日になることを、菊は願っておりますよ」
「あ、ありがとう……」
意味ありげな眼差しでこちらを見つめる菊さんは、ふふふと微笑んで空を見上げた。
「いい天気。今日も素敵な月夜になるでしょうねえ」
「そうだといいんだけど」