お嬢様、今宵は私の腕の中で。



「いってらっしゃいませ」

「いってきます」


クリスマスイブ当日。

午前中のところで晶さんたちに準備を手伝ってもらったので、自信を持って出かけられる。


目の前で礼をする数名の使用人に挨拶をして、玄関のドアを開ける。


「すずお嬢様。九重様はお車でお待ちになっていますよ」

「うん。ありがとう、菊さん」


九重の代わりに車まで送ってくれるのは、使用人の菊さん。

水浅葱の着物を着て、上品に微笑んでいる。


「それにしても……嬉しいでしょうねえ」


車に向かっている途中で、菊さんがぽつりと洩らした。


「え?」


言葉の真意が気になってそう問い返すと、菊さんは目尻に皺を寄せる。


「今日がお二人にとって素敵な日になることを、菊は願っておりますよ」

「あ、ありがとう……」


意味ありげな眼差しでこちらを見つめる菊さんは、ふふふと微笑んで空を見上げた。


「いい天気。今日も素敵な月夜(つくよ)になるでしょうねえ」

「そうだといいんだけど」

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