お嬢様、今宵は私の腕の中で。

話していると、いつのまにか庭を抜けて駐車場に出ていた。


そこには大きなリムジンが停めてある。


近寄って車のドアノブを掴もうとした菊さんは、その手を引っ込めてわたしを振り返った。



「すずお嬢様」

「は、はい」



年齢を感じさせないほどシャキッとまっすぐに伸びた背筋。

かしこまった態度にわたしも背筋が伸びる。


菊さんはわたしの肩に手を置いて、力を込めるようにポン、と叩いた。


「今日のお嬢様は一段とお綺麗ですよ。自信を持って、楽しくお過ごしくださいね」

「うん。ありがとう」

「では、お気をつけて」

「いってきます」


ドアを開けると、中にはピシッと背筋を伸ばして待つ彼の姿があった。


「……おまたせ」


妙な緊張で若干声が震えてしまう。


「お待ちしておりました」


それは、わたしだけではなく。

いつも冷静沈着、泰然自若で、どんなハプニングにも正しい判断を下す、余裕のある彼は。


いつになく緊張した面持ちで、わたしを出迎えた。

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