お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「出発致します」


そう運転手から声がかかっても、お互いに声を出すのを忘れて黙り込む。

おかげで、運転手にものすごく心配されるハメになった。



ゆらりゆらりとリムジンに揺られる。


「お嬢様」


静寂に包まれていた車内に、九重の声が響いた。


「おとなりに座ってもよろしいですか」

「う、うん。どうぞ」


意識せずとも、他人行儀になってしまう。

九重は静かにわたしのとなりに腰をおろした。


「……」

「……」


気まずさに軽く身じろぎすると、九重も気まずさを感じているのか、足元に視線を落とす。


しばらくその状態でいると、あっという間に目的地に着いてしまい、車のドアが開く。


「お気をつけて」


にこにこと笑みを浮かべて送り出してくれた運転手にお礼を言って、車から降りる。

わたしたちが降りると、リムジンは早々と走り去っていった。

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