お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「その……」
じっとその先の言葉を待つ。
九重は一度息を吐き、足を止めてわたしに向き直った。
「お洋服、素敵です」
「……へ?」
構えていたので、余計に拍子抜けしてしまった。
……服?
「それだけではなく、髪やメイク、ネイルに香りまで。ものすごく素敵です」
一気に言い放って、九重は視線を斜め上に逸らした。
「……おそいよ」
試しにそう言ってみると、九重は「申し訳ございません」と彼らしくない態度で頭を下げた。
「うそうそ。気にしてないから大丈夫だよ。ていうか、ちゃんと気付いてくれてたんだね」
「もちろんです」
なんだ。
全然触れてこないから、忘れられているのかと。