お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「……狡すぎ」


低い声が耳に届く。

そして、一歩、距離が縮まった。


「可愛い」


たった一言。


それだけで、身体に熱が集まる。

今日のコーデは、先日わたしの唯一の希望であった、"普通の女子高生"の格好がしたいというのをもとに、晶さんたちが考えてくれたのだ。

だから、なるべく高価なものではなく、シンプルかつ動きやすい服装になっている。

それでも生足を出すというのは結構寒い。


九重がわたしの髪をさらりと梳いた。


薄茶の長い髪を、今日はハーフアップにしてある。

これはヘア担当である三春さんがしてくれたのだ。


「いつもより一段と可愛いです」


1音1音がはっきり耳に届く。

大切に紡がれた言葉は、優しく耳朶を打つ。

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