お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「お嬢様。少し、浮かれたことを訊いてもいいですか」
「……ん?」
「それは、私のため、ですか」
ドキッと心臓が跳ねた。
左右に視線が彷徨う。
それだけできっと九重は気付いたはずなのに、それでもなお首を傾げて私を見つめてくる。
「言わなくても、分かる、でしょ」
「いいえ。言葉にしなければ思いは伝わりません」
正論をぶつけられてどうしようもなく俯く。
「私は今宵、お嬢様のためだけにお洒落をしてきました。全ては貴女に素敵だと思ってもらうためです」
「……っ」
「お嬢様は、どうですか」
────そうだよ。
全部全部、貴方のため。
心の中では言えているのに、唇が震えて言葉が出ない。
そんなわたしを、九重は根気強く待ってくれている。
「……わ、わたしも」
これが限界だった。
そろりと九重を見上げると、優しさと甘さが混じった笑みが降ってくる。
「嬉しいです」
そう言って破顔する九重は、わたしの首元に目を遣って、それからはっと思いついたように自分の首に巻かれたマフラーをとった。
「すみません、気付けなくて」
ふわり、と首に巻かれたマフラー。
途端に淡いシトラスの香りが鼻腔をくすぐる。
「九重が寒いでしょ」
「いえ。大丈夫です」
「でも、悪いから……」
マフラーをとろうとしたわたしの左手が掴まれた。
「私はこちらが1番ですので」
ロングコートのポケットに繋いだ手を入れて、九重はにこりと笑った。
トクトクと鼓動が高鳴る。