お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「今日はありがとうございました。本当に楽しかったです」

「わたしも。付き合ってくれてありがとう」


ポケットの中の手にぎゅっと力がこもる。


「月が綺麗ですね」

「ほんとだ……」


空には綺麗な月と、凍星が輝いている。

それらをぼんやりと眺めていた、そのときだった。


「あ……」



ふわり、ふわりと舞い降りてくる白い花びら。


舞い落ちた花弁雪は、わたしたちの足元ですうっと溶けて消えた。


「初雪だね」

「そうですね」

「ホワイトクリスマス?」



訊ねると、九重は空を見上げたまま難しい顔をして答えた。


「日本ではクリスマスイブかクリスマスに積雪があることを言うそうですよ。降雪だけではいけないそうです」

「そっか……」

「ですが、ホワイトクリスマスの定義は国によって違うようです。イギリスでは、クリスマスに雪が降れば、ホワイトクリスマスと言うそうですし」

「じゃあ、ホワイトクリスマスってことにしちゃおう!わたしと九重だけのホワイトクリスマスだねっ」


2人だけのホワイトクリスマス。

街に出かけて、水族館に行って、イルミネーションが輝く道を歩いて、月を見上げて雪を楽しむ。

これ以上に最高のおでかけがあるだろうか。

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