お嬢様、今宵は私の腕の中で。
よく見る夢がある。
握られていた右手がふっと軽くなって、となりで一緒に歩いていた少女が前に走っていく夢。
「────!」
叫んでも、声が掠れていて少女には届かない。
少女は振り向くことなく、前にいた男の子と手を繋いで歩いていってしまった。
二人の背中はだんだん小さくなり、そしてふっと消えた。
「いかないで……。わたしを、置いていかないで」
地面に手をついてつぶやくわたしに差し伸べられた、白くて小さな手。
見上げると、柔らかな笑顔が、そこにあった。
「───大丈夫だよ、すずちゃん」
夢は、そこでふっと途切れた。