お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「すいませーん。この家広くて迷子になったみたいなんですけどー」
大きな声と共に、がちゃりとドアが開け放たれた。
「ん?」
訝しげに眉を寄せた小暮界人が視線をドアに向ける。
聞き覚えのある声に、わたしの視線もそちらを向いた。
そこにいたのは。
「月夜、さん……?」
正真正銘、月夜さんだった。
「あれ、お取り込み中だった?」
「そうだよ馬鹿野郎」
まったく悪びれもせずへらりと笑う月夜さんは、小暮界人の横にいるわたしに目を向けた。
「これはこれはお嬢様。こんなところで何をなさっているのですか?」
「そんなのお前には関係ねーだろ。失せろ」
「あれ、君は」
月夜さんは、その顔に怪しげな笑みをたたえた。
その藍色の瞳で射抜くように、まっすぐに小暮界人を見つめる。
「小暮財閥の御曹司様ではありませんか。噂に聞く印象とは全然違いますね」
「噂なんて、おおかたそいつに対する偏見でできてるんだよ。いったい俺の何を知っているんだ。理想を勝手にぶつけてくんな」
「そういうの、俺は嫌いじゃないですよ」
余裕そうに微笑を浮かべた月夜さんは、わたしの方へ歩み寄った。
「なんで来るんだよ。お前、誰だよ」
「お嬢様、浮かない顔をしてどうしたんですか」
小暮界人の言葉をスルーした月夜さんは、まだ動けないでいるわたしの手を取った。