お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「小暮さん、あまり女性を怖がらせてはいけませんよ」
「あ?お前に関係ねえだろうが」
「それがあるんですよ。お嬢様が傷付くと、悲しむ騎士がいるのでね」
なにやら不思議なセリフを吐く月夜さんは、わたしの身体をひょいと抱き上げた。
「失礼します、お嬢様。さあ、俺と参りましょう」
「ちょ、おい……!」
小暮界人の声を後ろに聞きながら、月夜さんはわたしを抱えて走り出した。
部屋から出て、長い廊下を走って、走って、走って。
「月夜、さん……?」
「しばしの我慢です。もう少しだけ、そのままでいてください」
気付けば、花が咲く庭に出ていた。
設置されているベンチに、ゆっくりとおろされる。
「迷子だなんて、嘘ですよね」
「バレましたか」
「だって、こんなに正確に部屋の位置を理解して……どうしてですか」
誰かが容易に入ることができないように、屋敷内を普段知っている者しか辿り着けないような部屋だったのに。
あっさり辿り着いて、ここまでわたしを運んでくるなんて。
初めてパーティーに来た人とは思えない。
この人、いったい誰なの……?