お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「……俺のお嬢様なのに」
さっきのキツい香水とは違う、ふんわり香る安心する香り。
────ああ、九重のにおいだ。
波のように安堵が押し寄せてきて、じわりと涙が浮かんだ。
「お嬢様」
それに気付いた九重が、わたしの目元をそっと指で拭う。
「……っう」
それなのに、涙が溢れて止まらない。
「ここのえっ……わたし、あんな奴と結婚したくない。取りやめてもらうっ」
「お嬢様、どこにされたのですか。その……キス、を」
ぎゅっとわたしを抱きしめながら訊いてくる九重。
わたしは顔を上げて、その美貌を見つめた。
「ここ」
額に手を当てると、九重は苦しげに頭を抱える。