お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「お嬢様。私……」
言うべきか、言わぬべきか。
迷うように口ごもり、思案したようすの九重は、小さくそう洩らした。
「ん……?」
問いかけると、九重は意を決したようにわたしの瞳を見つめた。
「キス、してもいいですか」
「……え」
「あの男にされたところ、私で上書きさせてください」
優しく頭を撫でられる。
大丈夫だよ、というように。
「駄目、だよ。よくないよ、九重」
いくらお嬢様に仕える専属執事とは言え、そんなことまでしなくてもいい。
そう、伝えようとしたのに。
「私がしたいんです。
あんな奴にお嬢様を汚されてたまるか」
あまりにも怒った顔でそう言うから。
トクリと胸が高鳴って。嬉しくて。
わたしの心はすでに、貴方に侵されているのかもしれない。