お嬢様、今宵は私の腕の中で。
『大丈夫だよ、すずちゃん』
「大丈夫ですよ、お嬢様」
その刹那、2つの影が重なった。
遠い遠い記憶が一瞬だけ蘇り、頭の中に流れ込んでくる。
光を宿し、どこまでも深い青色の瞳。
わたしを安心させてくれる、まっすぐな眼差しは、まるで。
「つき、くん……?」
気付けば、声に出していた。
「……え」
目の前の顔が一瞬で驚愕の表情に変わり、それからゆっくりと歪んでいく。
「……どうして、その名前を」
「え……あ」
夢で、なんて不確かなこと言えるわけがない。
どう言っていいか分からず口を結ぶ。
「答えてください。その名前を、いったいどこで」
真剣な眼差しで問いかけてくる九重は、わたしの肩を掴んだ。
その強さに思わず肩が震える。
「あ……すみません」
驚いてパッと手を離した九重は、それから申し訳なさそうに俯いた。
「これでは私もあの者と同じですね」
自重気味に笑って己を戒める九重は、静かに空を見上げた。
わたしも習って空を見上げる。