お嬢様、今宵は私の腕の中で。
月が、輝いていた。
九重といるときは、いつも月が出ているような気がする。
雲に隠れたりせず、はっきりした月が光を放っている。
「……いいよ。キスしても」
唇から落ちた言葉は、夜気に溶けて消えていった。
それでも、九重はしっかり聞き取ってくれるだろうと思っていた。
「……本当に?」
ほら、やっぱり。
うかがうような目を向ける時点で、大体心のうちは分かる。
こくりと頷くと、静かに流れた碧眼がわたしをまっすぐに捉えた。
物音ひとつしない夜に、小さな音がひとつ。
そっと額に落とされた唇は、僅かに震えていた。
……怖くなかった。
全然嫌じゃなかった。
その事実だけで十分だった。
自分の想いを知るには十分すぎた。