お嬢様、今宵は私の腕の中で。

口許に手を当てて笑った聖羅は、九重に手を伸ばした。


そして、その顔に満面の笑みを浮かべる。


「わたくしの執事にならない?」


……え。

声を出してしまいそうになるのをかろうじて抑える。


「ルックスも嫌いじゃないし。なによりその性格が面白いわ。一緒にいると退屈しなさそうで」

「……ふざけないでください」

「あら?わたくしは本気よ。来てくれるなら、それなりの報酬は与えるわ。桜家よりも多くのね」


そんな。

またここでもお金。


結局この世界はお金を中心になりたっているのか。


どろどろと腹の底で渦巻くものを感じながら、九重の言葉にじっと耳をすませる。


けれど、いくら待っても九重の声は聞こえてこなかった。


ここからでは九重がどんな表情をしているのか見ることはできない。


見えるのは、整った聖羅の顔と九重の後ろ姿だけだ。


……九重、今どんな顔をしているの?


九重もみんなと同じように、お金の方へ行ってしまうの?


そんな不安ばかりが頭をよぎる。
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