お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「どうなさったのですか。ご体調が優れないのですか」


違う、と布団の中で首を振る。


「では、どうして」


……あなたのせいだよ。

そう言えたら、どんなによかっただろう。


だけど、それを口にしてしまえば、色々と面倒なことになりそうなので言えない。


だからここは、これに尽きる。


「……ほっといて」


最強の言葉だった。

以前もこうして、自分がこれ以上傷付くのを恐れた。


逃げに徹した。

自分で壁を築けば、それを乗り越えてくる人なんていないと思っていたから。


「……できません」


布団越しに耳に届いたその声に、ハッと息を呑む。


「失礼します、お嬢様」

「え」


いきなり布団が引っ張られて、現れたのは九重の顔。


「ちょ……待ってよ」


突然のことに、顔を隠すのも忘れて呆然としてしまう。


「お嬢様……泣いているのですか」


その声で、ハッと我に返った。

慌ててシーツに顔を押しつけたけれど、もう遅い。


夜通し泣いて腫れたわたしの目を、九重が見過ごすわけがなかった。
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