お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「……どうして。小暮に、他に何かされたのですか」
焦ったような、信じられないといったような声が降ってくる。
その声に、止まっていたはずの涙がまた溢れ出す。
……だめだ。
これ以上そばにいたら、わたしの心は完全に壊れてしまう。
「1人になりたいの」
「ですが」
「────ほっといて!」
声を荒げて部屋を飛び出す。
これじゃあ、完全な八つ当たりだ。
最低だ。
そんなことは分かっていたのに、止められなかった。
ぽろぽろといくつもの涙がこぼれ落ちる。
肌に触れる冷たい空気も、澄んだ冬の空も、いつもならものすごく素敵なはずなのに。
今日だけは、どこまでも無色で無意味なものだった。