お嬢様、今宵は私の腕の中で。
◇
大晦日を目前とした今日の街は、当然人で溢れかえっていた。
たくさんのひとに揉みくちゃにされながら、なんとか足を進める。
……初めて護衛なしで来てしまった。
いつもは数名のガードマンや、少なくとも貴船や九重のような執事がいるのに。
お父様に知らせず、一人で来てしまった。
クリスマスイブの日に通った道順を思い返しながら歩いていると無事到着することができた。
今頃九重はどうしているのだろう。
焦っているのだろうか、当然だよね、などと自問自答しながら、背伸びしてあたりを見回してみる。
出店にはたくさんの和菓子が並べられていて、見るだけでお腹が鳴ってしまいそうだ。
ふらりと吸い寄せられるようにガラスケースに近付く。
ぜんざい、あんみつ、わらび餅。
食べたことのない類のものがたくさんあって、思わずそれらを凝視する。
食べてみたい……。
そんな欲が生まれて、ふと思い出した。
「お金……」
基本的にわたしがお金を持つことは禁止されている。
お金を扱えるのはお父様だけであって、それはたとえお母様でも勝手に使うことはできないというルールがある。
だから当然、わたしはお金など持っていなかった。
いつもなら九重が何やら交渉して、お父様に請求がいくようにしてくれるのに、今日はそれが出来なかった。