お嬢様、今宵は私の腕の中で。
落胆していると、ドン、と誰かの肩がわたしにぶつかった。
「……っ」
声を上げることもできないままよろめく。
当然のことながら、倒れないようにわたしを支えてくれる人など誰もいなかった。
固い地面に無様に倒れ込む。
咄嗟に手を出して顔だけは守ったものの、膝と手のひらがとてつもなく痛い。
「……ったぁ」
「これは失敬。大丈夫ですか」
……あれ。
上から降ってきた声にふと違和感を感じる。
そろりと顔を上げて、思わず目を見張った。
「九重……?」
ぽろりと口からこぼれた名に、手を差し出す男性は訝しげに眉を寄せた。