お嬢様、今宵は私の腕の中で。
にこにこと笑みを浮かべながら手を振って走ってきた彼女は、わたしに視線を流して、それから目を見開いた。
「……どうした、ひまり」
そう問われても何も言わないまま、その場に立ち尽くしている。
先程の雰囲気から察するに、2人は恋人なのだろう。
男性が呆然とする女性のそばに駆け寄って、腰に手を回す。
「……大丈夫?」
「あの、子……」
小さく洩らした瞬間。
その女性はほろりと一粒の涙を流した。
それからわたしのもとへ駆け寄って、ぎゅうっとわたしを抱きしめる。
「……え」
突然のことに理解が追いつかないまま、わたしは抱きしめられていた。
「……ごめん、ごめんね。すず」
なんでわたしの名前を知っているの?
何がごめんねなの?
この人はいったい何者なの?
次々と疑問が浮かび上がる。
それでも、どこか懐かしい向日葵のような香りに包まれて、そんな疑問は頭から消えていった。