お嬢様、今宵は私の腕の中で。



「……ごめんなさいね、いきなり抱きついたりして」

「いえ……」


甘味処で、団子を食べながら肩を落とす彼女を見つめる。

すると、九重似の男性が「どうぞ、遠慮なく食べて」とあんみつを手で示した。


「いえ……おかまいなく」


なんだろう、この状況は。


抱きしめてきた女性に「話がしたいの!」と半ば強引にこの甘味処に連れて行かれ、今に至る。


見る限り、危ない人たちではなさそうだけど。


知らない人からもらったものは口にしてはいけないと、きつく教えられてきたので食べるわけにはいかない。

もし毒でも入っていようものなら、大事になりかねない。


「それであの……あなた方はいったい」


あんみつから目を逸らして問いかけると、女性は「そうね。自己紹介しないとね」と言って串を置いた。

早くも団子がなくなりそうである。

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