お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「……え?」


思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

でも、そりゃそうだ。誰だってわたしのような反応になるに決まってる。

だって、見ず知らずの初対面の相手に「私はあなたの姉だ」なんて言われて、「はいそうですか」と頷ける人なんていないだろう。


「いや……だって、え?」

「私は桜ひまり。今は光月と結婚して九重になったけど、旧姓は桜なの」


なんとも信じがたい。


「10年前……すずがまだ6歳の時、私は光月と一緒にイギリスに行ったの。当時私の執事だった光月と、婚約者から逃げるためにね」


そこでひまりさんは目を伏せた。

長い睫毛が影をつくる。


「お父様とお母様は大反対だったわ。それで大喧嘩して、挙句の果てにはお前なんか娘じゃないって言われてしまってね。飛び出すように家を出て、桜の姓を捨てた」

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