お嬢様、今宵は私の腕の中で。

そこでひまりさんは目を開けて、光をその瞳の中に宿した。


「後悔はしてない。こうして光月と一緒にいられて、心から良かったと思ってるの」


話がぶっ飛びすぎて、もはやこれは夢なのかもしれない。

うん、きっとそうだ。


……夢?

何かがひっかかって、首を傾げる。



『……いかないで。わたしを置いていかないで』



すうっと小さくなっていく背中。

滲んでいく視界にうつった背中。



『お姉ちゃん────!』



声にならない声が口から出て、それでも振り向くことなく去っていった彼女は。


「お姉、ちゃん……?」


思い出した。

今までどうして忘れていたのだろう、こんな大切なこと。


わたしは一人っ子じゃなかった。

ひまりお姉ちゃんが、いた。


何度も見る夢は、最愛の姉との別れの場面だったのだ。

< 259 / 321 >

この作品をシェア

pagetop