お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「……どうして。どうしてわたしを置いていったの?お姉ちゃん」
涙が溢れて止まらなかった。
ずっと一人っ子だと思って、両親からの重圧に耐えてきた。
嫌いなお稽古も頑張ったし、家のことを背負わなければならない圧に押し潰されそうになっても、それでもやってきたというのに。
お姉ちゃんは、逃げたの……?
わたしを置いて、光月さんと外国に逃げたの……?
だから、ごめんね、なの?
そんなの、自分勝手だよ。
どろどろとした感情が渦巻く。
「お父様もお母様も、お姉ちゃんのことをわたしに教えてくれることはなかった。だから、だから」
「……忘れていたのね。それは仕方ないことだと思ってる。だって、遊んだのは随分前のことだもの。小さいあなたが覚えてるはずないわ」
だから、うっすらとした記憶しか残っていなかったのだ。
ずっと一緒にいれば、記憶が消えてしまうことはない。
けれど、わたしたちは。
姉妹なのに、10年間の時を別々に過ごしていた。