お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「きょ、今日から、ひまり様の執事をします。九重とい……も、申します」


たどたどしい挨拶をした彼は、私と同じ12歳だった。

今や私の夫となった九重光月。


思い返すと初々しくて、とっても懐かしい。


当時の彼は、教え込まれたのであろう敬語を一生懸命使って、私に綺麗な礼をした。


「九重、よろしくね」


執事という職をはっきりと認識していたわけではないと思う。


ただ、同じ年の男の子がわたしのそばにやってきた。


そんな感覚。


何度訊いても名前を教えてくれることはなかった。

そのため、呼び方は【九重】という苗字。

今のように【光月】と呼ぶようになったのは、イギリスに行ってからのこと。


私たちは当然のように一緒にいて、当然のように仲良くなって、恋心とまではいかないけれど"特別な感情"を互いに抱いていた。


このまま大きくなって、結婚するならこの人なんだろうな、となぜだか漠然ながらに考えていた。

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