お嬢様、今宵は私の腕の中で。

私の婚約者が決まったのは、そんなことを考え出した12歳の冬のことだった。


「ひまり。来月からお前は来栖家で生活してもらう」


突然放たれた言葉だけれど、今でも鮮明に覚えている。


「どうしてですか、お父様」

「お前の結婚相手が決まったからだよ。そろそろ中学生になるだろう。だから、その相手の家で一緒に暮らすんだ」


冗談じゃない、と思った。


なんで見ず知らずの、好きでもない人と結婚しないといけないんだ。

しかも、私はまだ大人じゃないんだよ?


「嫌です、お父様。私、まだ結婚なんてしたくないです」

「今はまだ結婚しない。だが、いずれ一緒になる相手なんだから、早めに仲良くしておいた方がいいだろう?」

「そんな……」


ショックで、どうしていいか分からなかった。

わたしと同じような立場の女の子は、こうやって好きでもない相手と結婚しているの?


そんなの、嫌だよ。

< 271 / 321 >

この作品をシェア

pagetop